LOGIN「ふむ、やはり美味しいな」
「神獣様にお褒めいただくなんて、光栄です!」その日の昼下がり。ロロに褒められたマーサが、嬉しそうに頬を紅く染めていた。
美味しい紅茶と軽食が並んだテーブルに、隣には紅茶を傾ける黒髪青眼のイケメン。 朝と変わらないような光景だが、場所だけが違っていた。 沢山咲き誇る色とりどりの花々と、瑞々しい緑の木々。ユロメア家の庭師が手がける、王宮にだって劣らない美しい庭園だ。 準備されたガーデンテーブルには、美味しそうなサンドイッチやスコーンが並ぶ。いつもだったらうきうきするところだが、私はまだ、大きく溜め息をついていた。「昼食くらい、気晴らしになればと思ったけど……。やっぱり気が重いわね」
「先ほどの招待状のせいですか?」心配そうなマーサの問いかけに、私は静かに頷いた。
今日も退屈な一日になりそうだ――なんて思っていた矢先。 王宮から届いたのは、舞踏会の招待状だった。 名目は、第二王子の誕生祝い――そう、あのヴォルシングの誕生日だ。(そういえば、この時期だったわよね……)
元婚約者として、毎年この時期には豪奢に着飾り、ヴォルグのパートナーを務めていた。
婚約破棄したとはいえ、名門ユロメア家の娘として、王家主催の行事を欠席するわけにはいかない。……が。(主役の元婚約者で、今は神獣使いだなんて……悪い意味で注目されるじゃない)
どうにもならないことだから、仕方がないと割り切るしかない。……本当に、気が重いけれど。
「あまり溜め息ばかり吐いていては、幸せが逃げるぞ」
ロロが他人事のようにそう言うのに、私はジト目を返すことくらいしかできなかった。
そんな妙な空気の立ちこめるお茶会にやってきたのは、本日も麗しく、日傘を差したお母様だった。「ご機嫌よう、神獣様。お寛ぎのところ、ごめんなさいね」
「母君か。いや、我に気遣いは無用だ」娘を差し置いて、脳天気に挨拶を交わす二人。どうやらこの二人、とても馬が合うようで……気がついた時には既に、和気あいあいと楽しく談笑するような仲になっていたのだ。
「お母様、どうされました?」
のそりと突っ伏していたテーブルから身体を起こすと、お母様の後ろに控えた侍女が、トレイの上に何かを乗せているのに気がついた。
「ジュリエッタ。貴女に急ぎのお手紙よ」
「急ぎの手紙……?」侍女から、丁寧に差し出された手紙を受け取る。
「貴女も知っているでしょう?ローエングリン神殿からなの」
「神殿……って、あの大きい?」 「ええ」受け取った封筒は、ざらりとした手触りに、不純物交じりの黄土色のものだった。貴族たちが使うような、上質で真っさらなものとは違う。
(となると、これは……神殿の神官からかしら?)
神殿に仕える神官でも、貴族と親しくするような高位の者は、上質な紙を使うものだけれど……。
思わずお母様を見ると、お母様も封筒を見て困った表情をしていた。「お母様。これ、急ぎと仰いました?」
「ええ。その手紙をお持ちになった使者の方がね、返事を貰うまで帰れない、と言うの。応接室でお待ち頂いているけれど……」ローエングリン神殿とは――王国内でも最古と伝えられている、大神殿だ。
王都の東にある森の中、ローエングリンと呼ばれる都市の中心に、壮大な敷地の石造りの神殿がある。 ロザリンデ教の多くの神官たちが、見習いとして教えを受け、修行をする場所としても有名だ。(お母様も、大神殿からということでお断りしなかったのね)
普通ならば、公爵家に手紙が届いたところで、身元が保証された差出人の手紙以外は、取り次ぎすらされないのが普通だ。
しかし今、我が家には神獣のロロがいて、私は神獣使いになってしまった。 神殿を無下にするようなことは出来ないし、ひとまずは内容を確認して判断するのがいいだろう。「お嬢様」
「ありがとう、マーサ」すかさずマーサが差し出してくれたレターナイフを使って、ざくりと封筒を開ける。
中から出てきたのは、封筒と同じ不純物の混ざった、ざらついた便箋が一枚だった。――拝啓、ユロメア公爵家、ご令嬢へ
この度は、突然ご連絡を差し上げる無礼をお許しください。 神獣使いとなられた貴女様に、これまでの神獣使いの方々の歴史について、 お話をする機会を頂きたいと存じます。 お手数をお掛けしますが、ローエングリン神殿へと、 神獣様と共に訪問頂けませんでしょうか? お返事は使者にお渡しくださいませ。 色よいお返事をお待ち申し上げております。 ローエングリン神殿 神官レイ――(……何だろう、この手紙)
丁寧な言葉に、美しい文字で書かれた内容は、どこか違和感を覚えた。
便箋を見つめながら眉間に皺を寄せる私に、隣からひょこっとロロが覗き込んでくる。 青い目がするすると文面を滑ったかと思えば、すうと細められた。「……綺麗すぎるな」
「ロロも、そう思われます?」同じ事を思ったらしいロロに、警戒が強まる。
通常、神殿に仕える神官たちは、ほとんどが庶民の出自だ。ほんの僅かの貴族出身者たちは、大体が自分の家門を追い出されたか、稀には自分から志願したかに分けられる。 この手紙は、書かれた文字が綺麗すぎる。よって、差出人は貴族出身者で間違いないと思うのだが……仮に貴族出身者であったのならば、公爵家の令嬢に手紙を送るのに、自身の元の身分を一切使用しないというのも、おかしな点だ。 下級の庶民出身神官からの唐突な手紙なんて、常なら返事すら出さずに無視してしまうのだが……。「――お母様。ローエングリン神殿の神官様が、神獣使いについてお話がしたいと言っておられるわ」
顔を上げれば、お母様は扇子を開いて口元を隠し、こくりと静かに頷いた。
「リーエが望むのなら、お行きなさい。明日、馬車を用意するわ」
「ありがとうございます」 「そうと決めたのならば、応接室でお待ちの使者の子にも、早くお返事をお渡しなさい」 「わかりました」お母様は再び無言で頷くと、ロロに優雅に会釈をして、静かに屋敷の中へと戻っていった。
「マーサ」
「はい、お嬢様」有能な私の侍女へと声を掛けると、すぐに封筒と便箋、そして筆記具が差し出される。
いつも使っている上質な白い便箋に、さらさらと簡潔に返事を書くと、すぐに封をして席を立った。「ロロ、行きましょう」
「ああ」いつの間に自分の分を平らげたのか。空のティーカップとお皿に満足そうな目をしながら、ロロが席を立つ。
向かうは、使者が待つという応接室だ。 使用人たちが道を譲ってくれる中、すんなりと到着した応接室。小さく深呼吸をして、ノックをした。「ジュリエッタ・ユロメアです。失礼いたします」
ほんの僅か、緊張に身を固くして扉を開けた、そこには――。
「あ……!突然すみません、公爵令嬢!お邪魔してますッス!」
お母様曰く『使者の子』――その呼び方にふさわしい、にぱっとした笑顔の青年が待っていた。
「これは、まさしく奇跡ですわ……」 アリアド王妃が、ほうっと感嘆の息を吐く。「本当に……」 「なんて美しい輝きなの……!」 「これが神獣使い様の力なのね」 私が虹色に輝くローザリアに目を奪われている間、テーブルに居合わせた貴婦人たちは、次々と称賛の言葉を口にしていた。(これが、祝福されたローザリアなのね……!) その美しさは、アリサが祝福したものとは格が違う。祝福された花は、ひと目で神聖なものだとわかるような、触れるのも躊躇われるほどの威厳を放っていた。「本当に素晴らしいです、ジュリエッタ様!」 「ミオ……」 感極まった様子で目を潤ませるミオに、ほんの少し苦笑してしまう。「私がすごいんじゃないわ。ロロが助けてくれたからできたのよ」 ぽん、と頭に大きな手が乗せられて、撫でられる。優しくて温かなそれは、ロロのものだ。「だとしても、初めてでここまで上手くできるのは稀だと思うぞ。よくやった、リーエ」 「ありがとう、ロロ」 少しだけ照れくさい気持ちではにかむ。 ――神獣使いは、聖女と違い神聖力を持たない。 自ら神聖力を扱うという体験がなかったからだろうか、これまで、神獣使いになった、という実感はあまりなかったのだけど……。今こうして、自分の手で祝福したローザリアを見ることで、初めて実感できたような気がした。(このローザリアを使えば、アリアドの国王は回復する) 不思議と、自分の中の何かが、絶対の安心感を持ってそう告げてくる。「王妃殿下。どうぞこちらをお持ちください」 花瓶を持って、差し出す。それをアリアド王妃は、侍女に任せたりせず、自らの手で受け取った。「ありがとう、ユロメア公爵令嬢。これできっと、陛下も良くなるわ」 今日見た中で一番柔らかく、優しい表情で笑う王妃に、釣られてこちらも笑顔になった。「お役に立てて、よかったです」 私たちの様子を見ながら、ずっと興奮していたようにおしゃべ
「兄上から聞いてはいたけれど……聖女様は随分と、純粋でいらっしゃるのね」 言葉とは裏腹に、厳しい目をアリサへと向けるアリアド国王妃。 アリサは、怯んだように一歩後退った。 アリアド王妃は、上品に深く溜め息を吐きながら、首を振る。「2人を試すような真似をして、悪いとは思っているわ。この要求に、貴女たちがどう出るのか見てみたかったの。……噂が本当なのか、確かめたいと思って、ね」 「え……?試す?噂?何のことですか、王妃様……?」 困惑したアリサから、アリアド王妃の侍女が花瓶を受け取った。「言葉通りの意味よ、聖女様。貴女のお話は、アリアドでも良く耳にしたわ。とても自由で明るくて、困ってしまうくらい可愛らしい方だと」 これは、言葉通りに受け取ってはいけない言い方だ。 社交界でよくある、嫌味のようなもの……淑女教育から逃げてばかりだというアリサは、気づけるのだろうか? ちらり、とアリサを窺えば、彼女は俯いていて、表情は見えなかった。ただその手元は、ぎゅっと強くスカートの裾を握りしめている。 さすがの彼女でも、アリアド王妃の言葉の意味を理解したのだろう。(恥なんてものじゃないわね。他国でも、自分勝手で行儀のなっていない、問題児だと噂されているだなんて) 呆れる気持ちはあれど、同情するような気持ちにはなれない。彼女の問題行動による一番の被害者は、恐らく私だから。「ちなみに、先程の話……祝福されたローザリアを持ち帰る件については、兄上にきちんと話をしてあるの。とはいえ、私がはっきりとそれを言わないうちに、国として取り扱いに慎重にならないといけないものを、自分ひとりの一存で差し出すべきではなかったわ」 柔らかくなった声音につられて、アリアド王妃へと視線を戻す。彼女は、お茶会の間とは違い、とても優しい微笑みでこちらを見つめていた。「さすが、兄上が自慢したくなるほど、立派な淑女だわ。まるで我が子かと疑いたくなるほどに、貴女のことを褒め続けるから、一体どれほどの方なのかと思っていたけれど……咄嗟の判断も、対処の方法も、すべて完璧だ
そこから先のお茶会は、アリサが楽しむものだった。 相変わらずアリアド国王妃様が積極的に発言しない中、アリサが中心となって会話が進んでいく。 いつもの取り巻きたちではなく、貴族の婦人たちが相手だから、アリサもあからさまに笑い声をあげたりすることはせず、婦人たちを適度に持ち上げ、ちやほやされるのを楽しんでいるような、そんな雰囲気ができあがりつつあった。 アリサは私を透明人間か何かのように扱うと決めたようで、最初の挨拶以降、一度もこちらを見なかった。 婦人たちも、そんなアリサの<わざと話を振らない>というやり方を何となく察しているらしく、ちらちらとこちらを見ることはあっても、話し掛けてくることはない。(令嬢たちとのお茶会よりは楽だけれど……。これはこれで、いいのかしら?) 時間が経つにつれて、どうしてもアリアド国王妃のことが気になってしまう。彼女はずっと、こんなお茶会の様子を見守っているだけで、ほぼ発言をしていない。 けれどこのお茶会の主催者は、彼女なのだ。(わざわざ、私とアリサを呼んだということは、何か話があったのではないのかしら?) ちらり、とアリアド国王妃の様子を窺う。と、丁度彼女と目が合った。 彼女はにこり、と笑むと、ようやく口を開く。「その黒い子が、貴女の神獣?」 「はい、そうです」 アリアド国王妃が話し始めると、がばりとアリサがこちらを向いた。 王妃はアリサを気にすることなく、ロロを見つめ話を続ける。「そうしていると、まるで普通の猛獣のようだわ。先程挨拶したときは、男性の姿をしていたわよね?」 「気分によって、この姿だったり、人の姿だったりするそうです」 「まぁ。神獣って、本当に不思議だわ」 柔らかい話口に、緊張して固くなっていた身体の力がわずかに抜ける。更に何かを言いかけたアリアド王妃だったが、アリサが横から割り込んできた。「本当に可愛いですよね!猫ちゃんは、私の自慢なんです!」 (私の自慢って……ロロは私と契約しているのに) まるで、自分の神
月を見上げて、深く溜め息を吐く。 王城の一室。ふわりと上品な香りのする便箋を手に、レイ――レイナルドは、物思いに耽っていた。 ジュリエッタからだという手紙には、会って話したいと、彼女の細く流れるような筆跡で綴られている。「……そろそろ、気づいたかな」 何となく、ジュリエッタが文句を言っている時の顔が浮かんできて、くすりと笑みがこぼれる。(――会いたいな) 湧き上がった心のままに、ふわっと彼女の文字に口づけた。 会いたい。あのくるくると変わる表情を見たい。他愛ない話をして、彼女の色んな反応を引き出してみたい。 だが……今は、少々タイミングが悪い。 今まで隠してきた自分の存在を表の世界へ戻すのには、慎重に時期を計らなければならないのだ。「待ってて、ジュリエッタ」 今まで出会った誰よりも目を惹く、興味深い女の子。 君に堂々と手を差し出す日のために、僕は――。 夜空を見上げるレイの瞳は、深く美しい紫水晶の色。その中に、温かな色を湛えて……レイは、いつまでも便箋を眺めていた。 アーヴェルト王国の現国王には、ひとり妹がいる。 その姫は、隣国アリアド王国へと嫁ぎ、アリアド国王妃として立派に両国の架け橋をしているのだが……。「アリアドの王妃様が、私に招待状を……?」 上質な箔押しの招待状を手に、向かいのお母様へ困惑顔を向ける。(今の私は、第二王子の婚約者でもないのに、どうして?) 今日も美しいお母様は、扇子で口元を隠しながら、上品に溜め息をついた。「なんでも、急に里帰りをなさったそうよ。それで……こちらに滞在している間に、聖女と神獣使い……貴女に会いたい、と仰っているのですって」 お母様にしては珍しく、苦いものを滲ませた声をしている。再び大袈裟な溜め息を吐いて、苛立たしげに私の持つ手紙へ視線を落とした。「うちのリーエは、見世物ではないというのに。なんて失礼なのかしら……リーエ、貴
「おはようございます!神獣使い様!」、「神獣使い様!足下にお気を付けください!」、「ああ!お荷物は僕にお任せください!神獣使い様!」……。 レイが手配してくれたという護衛騎士・ミオは、ユロメア公爵邸に住み込みで、毎日つきっきりで私を護衛してくれていた。 毎朝きらきらした瞳で挨拶され、何処に行くにもついてきてくれて。ただ傍にいるだけでなく、重い荷物を持ってくれたり、他愛ない会話をしたり。彼は、存外するりとここでの生活に馴染んでいた。 ただひとつ、気になることと言えば――。「神獣使い様!お出掛けですか!」 ――そう、私を見上げてくる時の、この目だ。 ミオが私を見るときは、いつも純粋で期待に満ちた――というのだろうか?もの凄くきらきらとした、強い圧を感じる目をしているのだ。(言うなれば……憧れの塊?) 天使のようなまだあどけない彼にそんな眼差しを向けられると、毎回とても眩しくて仕方ない。「厩番の方が、馬車の整備をしているのを見ました!何処かへ出掛けられるのでしたら、絶対にこの僕をお連れくださいね!」 (なんだか、見えない尻尾をぶんぶん振られているような……。神殿騎士ってみんな、犬っぽく見えてしまうのは気のせいかしら……?) しばらく見ていない、レイと一緒にいるもうひとりの神殿騎士を思い出して、吹き出しそうになってしまった。 ミオが、きょとんと首を傾げている。「んんっ。なんでもないわ。ええと、馬車だったわね?」 「はい!お出掛けですか?」 「ええ。今日はレイに会いに行こうかと思って。後で一緒に、ローエングリン神殿へ行きましょう」 暗殺者に襲われた、あの夜以降……そろそろ1週間くらい経つだろうか? 私の身を案じる家族達に泣きつかれ、しぶしぶ屋敷の中だけで生活していたが……そろそろ、外の空気を吸いたい。 それに……レイには、聞きたいこともある。(あの時は、上手く誤魔化されてしまったけど……) どうしてあの場にレイがいたのか。私を襲った暗殺者はそ
「ああ聖女様!本日もありがとうございます!」 「貴方も。付き添ってくれてありがとう」 にこりと優しく微笑んでみせれば、付き添いの神官は感激したように目を潤ませていた。(誰も彼も、本当にうっとうしいわね) 今日アリサは、首都にあるロザリンデ主神殿へと来ていた。聖女のためにと仕立てられた純白のドレスはとても綺麗で、いかにも聖女といった装いができるのは心が弾む。 ……が、しかし。ここへ来て、やらされることといえば。 祈りの広間にある、巨大な女神像の前に膝をつき、祈りの姿勢を保ったまま、じっとしているという苦行だ。 最初の頃は、石床についた膝がもの凄く痛くて、こんなことやってられないと怒ったりもしたが……。最近になり、大神官がクッションを用意してくれたので、少しやりやすくなった。 しかし、膝が痛むことはなくなったとしても、苦行は苦行である。 何十分もその姿勢のままじっとしているなんて、肩は凝るし、何より退屈だ。(女神に祈りを、なんていうけど。こんな石の固まりに何を祈れって言うのよ?) 本当に、ばかばかしいことこの上ないのだが……。 先日の、ヴォルグの誕生日パーティーで、聖女の印象が悪くなってしまったらしい。その挽回のためにも、必ず毎日祈りを捧げるように、と、国王に言われてしまっては仕方がない。 祈りを終えた私を、付き添いの神官が応接室へと案内してくれる。(私が毎日こんなことをしなくちゃいけないのも、私の評判が悪くなったのも、全部あの女のせいよ) 前を歩く神官にばれないよう、ぎりりと奥歯を噛み締める。 折角、あの神獣を抱き込んでやろうと思ったのに。 あの女も、あの生意気な神獣も。私にあんな態度を取って……。先日知り合った騎士に殺してもらおうと思ったのに、失敗したみたいだし。(何も良いことなんてないわ!) 案内してもらった応接室で、長椅子に腰掛ける。 座った瞬間に、ぐらりと気持ち悪さが襲ってきた。「う……」 「聖女様?どうされましたか?顔色が……」